第9章
天野拓也視点
午後三時、由美が玄関からよろよろと入ってきた。その姿はまるでトラックにでも轢かれたかのようだった。
「由美!」
俺はソファから飛び上がった。
彼女はひどい有様だった。いつもは完璧に整えられている髪はもつれ、聖桜大学の制服はしわくちゃでシミだらけ、顔は青白く、マスカラが涙で流れて筋になっていた。
「拓也」彼女は震える手で俺の腕を掴み、囁いた。「助けて。お願い、助けて」
胸が締め付けられた。こんな由美は見たことがない。打ちのめされ、弱々しく、何かに怯えていた。
「俺たちが何とかする」父さんが由美の肩に手を置き、毅然とした口調で言った。「どんな手を使ってもだ」...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章


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