第十章 誤認の恩人

廊下はずいぶん長い間、静かだった。颯真は座らず、立ち去りもせず、その場に佇んでいた。

ドアが内側から開いた。先に出てきたのは医師だった。マスクを外し、廊下に立つ人影を認めると、足を止めた。時透が後に続いた。白衣はすでに脱いでいたが、シャツの袖口には洗い落としきれなかった暗い血の跡が残っていた。颯真を見ても、立ち止まらなかった。そのまま脇を通り過ぎようとした。

「彼女は。」

颯真の声は低かった。

時透が足を止めた。振り返らなかった。

「出血多量。まだ峠は越えていない。」

颯真は何も言わなかった。一歩踏み出し、あのドアから中へ入ろうとした。

時透が身をひるがえし、行く手を塞いだ。

「入れない。」時...

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