第百二章 獅子の値段

木のドアを押し開けると、濃い色の仕切り板が目に入った。カウンターシートの革は使い込まれ、照明は低く暖かく落とされ、隅の古い掛け時計がかちかちと刻んでいる。颯真はここに来慣れているらしく、フロアの係がすぐに気づき、無言で二人を窓際のボックス席へ案内した。

窓の外は細い石畳の路地で、ときおり自転車が通り過ぎる。

食べログにも雑誌にも載っていない。メディアは来ない。颯真を知る人間がここの扉を開ける可能性は、ほぼゼロに近い。彼が意図して選んだ場所だと、温音には一目でわかった。

注文のとき、颯真は温音に何も聞かなかった。それでも彼女の好みは把握していた——あっさりした味のサーモンサンド、玉子サラダ...

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