第二十二章 陸原照の選択

ギャラリーの閉館時刻、雪音は里帆を入口まで見送った。

ふたりはしばらく戸口に立ったまま、多くは語らなかった。里帆は立ち去り際に振り返り、何か言いかけて、けれど結局ひとことだけ静かに言った。

「――元気でいて」

雪音は廊下に立ち、足音が遠ざかって、やがて消えるのを聞いた。

しばらくそのまま動かず、それから机の上の書類を手に取り、バックヤードの作業室へと向かった。

今夜中に処理しなければならない展示資料が、まだ一山残っていた。


作業室の灯りはついたままで、廊下はすっかり静まりかえっていた。

雪音は書類を見下ろしながら、ペンがある行の数字の上で止まった。視線は動いていない。

...

ログインして続きを読む