第二十六章 月見の前夜

心音はほどなく眠りについた。

ふたりは窓際に腰を落ち着け、それぞれ茶杯を手にした。湯気がかすかに立ち、ゆっくりと散っていく。窓の外には東京の初夜に灯る霓虹が広がり、この高さから見下ろすと色が溶け合い、橙、白、青が湿気を帯びた空気の中でその輪郭をにじませていた。

明里がある名前を口にした。——貝原天陽。

声は低く、長いあいだ手を触れていなかった物をそっと取り出すような慎重さがあった。

ふたりは家柄が大きく違い、それぞれの家族が反対した。最後に一度だけ会って、それきり連絡は途絶えた。

温音は茶杯を両手で包んだまま、

「純粋な恋愛を、一度もしたことがない」

声は平坦だった。自嘲とは違う...

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