第三十四章 薔薇の棘

黒崎家の老当主の八十寿の宴は、本邸の広間で催された。

天井まで届く暖かな照明の下、銀食器とシャンパングラスが卓上でひっそりと光を返している。着飾った客たちの笑い声が絶えず、空気には精巧に演出された太平の気配が漂っていた。

温音は明里と連れ立って会場に入った。

明里が選んだのは深いモスグリーンのベルベットのロングドレス。衿と袖口の裁断は端正で、裾は床まで流れ落ち、凛とした気品を纏っていた。二人が足を踏み入れた瞬間、周囲からいくつかの視線がさりげなく向けられ、一拍だけ止まって、それから離れていった。

明里が耳元に口を寄せ、声を潜めながら周囲の客を次々と品評していった。軽やかな口調に棘が混じ...

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