第五十三章 ある協定を結ぶ

その四文字は、まだ台所の空気の中に漂ったまま、消えていなかった。

——背筋を伸ばして歩け。

命令でもない。皮肉でもない。温音にはわかった。わかるからこそ、その言葉をどう扱えばいいのか、見当もつかなかった。

グラスを台に戻し、部屋へ戻ってドアを閉めた。

ベッドサイドの引き出しから小さな清酒の瓶を取り出し、半分ほど注いで、一気に飲み干した。液体が喉を滑り落ち、束の間の灼熱感を残していく。目を閉じ、その熱で胸の奥に沈んでいる言葉の重さを薄めようとした。

何とも言えない味がした。

スマートフォンがテーブルの上で振動した。

発信者を確認した——明里だった。

「もしもし」

「温音、あ...

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