第五十八章 夜の網

明里は玄関で靴を履き替え、書類袋を肩にかけて、温音をちらりと見上げた。何も言わず、そのまま出ていった。

颯真は廊下の壁に背を預け、消えていくその背中を見送ってから踵を返し、書斎へ戻ってドアを引いた。

光は白く、廊下に二つの影を落としていた。互いに離れていく、二つの影を。

あの無言の視線は、夜の闇にすっと飲み込まれていった。


定期健診は朝八時の予約だった。

温音が着替えて階下へ下りると、明里の車はすでに玄関先に止まっていた。二人は乗り込み、総合病院へと向かった。

診察室で医師に定型の問診をされ、温音はひとつひとつ淡々と答えた。まるで自分とは無関係な話をするように、声に揺れは...

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