第七十三章 冷たい病室、遠い灯火

廊下で、陸原照はエレベーターの前に立ち止まり、すぐにボタンを押せずにいた。

三村の言葉が耳に蘇る。——「恩人は別にいる」。澄花が電話口で見せた動揺と曖昧な言い方。そして彼女が口にした言葉——本当に自分を助けてくれた人は、もう死んだ朝霞温音だと。

それから、今しがたの病室を思い返す。颯真が言ったこと。

最初の日から、ずっと気づいていた。

陸原照はエレベーターのボタンを押した。

まだ口を開く時ではない。


病室に戻り、颯真は静かに腰を下ろした。

しばらくして、彼はふと顔を横に向け、自分でも予期しなかった口調で、誰もいない空気に向かって呟いた。

「白崎時透は、なかなか顔がいい...

ログインして続きを読む