第八章 生死の選択
「今日から、ここに住んでもらう」
時透が言った。
「医療チームは私が手配する。身分証明も新しく処理する。外の世界にあなたがここにいることは知られない」
温音は窓の外を向いた。
「例の件は」
「どの件だ」
「私を一度死なせること」
時透が少し黙った。
「準備はもう始めている。だが時間がかかる。段取りが必要だ。それまでは——」
身体を向けた。
「まず生き延びることだ」
「代償は」
温音が聞いた。
「十倍だ」
時透の声は平だった。
「あなたが再び立ち上がったら、十倍で返してもらう」
温音は答えなかった。窓の外、銀杏の葉が落ちていた。時透は窓辺に立ち、ブラインドを下ろしては引き上げ、また下ろした。三回。余計な動作をしない男が、今夜は三回した。
「覚悟はできているか」
「できている」
「病気を駒に使うのは」
彼は言った。
「危険だ」
「ずっと待ってきた。川里枝が私を気にかける日を。颯真が私を信じる日を。運命が私を手放す日を」
仰向けに寝たまま天井を見た。
「今日になってようやく分かった——」
顔を横に向けた。
「活路は、奪うものだって」
長い沈黙だった。温音が諦めかけた頃、時透が口を開いた。
「ロンドンのチームは一週間後に着く。執刀は加藤、腫瘍領域では名の通った人間だ。彼が言う数字をよく聞け、ただ怖気づくな——先天異常三割、流産四割、手術しなければ三ヶ月」
「うん」
「視神経はかなり圧迫されている。手術は早いほどいい。だが胎児が小さければ小さいほど、薬物の影響は大きくなる」
一拍置いた。
「詰んでいる。胎児が薬に耐えられるようになる頃には、目が取り返しのつかないことになっているかもしれない」
病室が静まった。
温音はそっと手を腹部に置いた。
「一つ聞かせて」彼女は言った。「もし手術の前に、完全に見えなくなったとして——私を助けたのは損な取引だったと思う?」
「思わない」
答えが速すぎた。時透自身も少し止まった。
「なぜ?」
「あなたが生きようとし始めたからだ」
時透が言った。
「多摩川で手を引いた時、冷たくて、脈が乱れていた。あの時あなたは生きたくなかった。だから私が掴んでいたのは、まだ死に切れていない体だけだった。今は違う——」
温音を見た。
「今は、あなた自身が生きたいと思っている」
温音は黙っていた。
胸の奥で何かが溶けた。音もなく、氷の下で水が動き始めるように。横を向いて、目元を時透に見せないようにした。
「うん」声は小さかった。「生きたい。子供のためだけじゃない」
「他に何が」
答えなかった。時透も追わず、話を引き取った。
「加藤は二つの選択肢を出してくる。子供を取るか、自分を取るか。彼はあなたに自分を選ぶよう勧める」
「選ばない」
「分かっている」
「子供も、手術も、両方」
時透は彼女を見た。目の奥で何かがかすかに光り、すぐに消えた。
「ならまずこの体を作り直さなければならない。栄養管理、一週間」彼は言った。「その間に少し肉がつく、体力も戻る——やりたいことをやるのに十分な時間ができる」
温音が顔を上げた。
「分かっていたの」
「手術の前に、川里枝、澄花、颯真を一人ずつ片付けるつもりだろう」時透が言った。「違うか」
「全部じゃない」
起き上がり、ベッドの頭に背をもたせた。声は落ち着いていた。
「川里枝は私を三百万で売った。あの分は、あの人の手で返してもらう。澄花は七年間、他人の恩で生きてきた。飲み込んだものは全部吐き出させる。颯真については——」
止まった。
「私を一度殺した。死というものがどういうものか、分からせたい」
時透は何も言わなかった。
ドアの前まで歩いて止まり、振り返った。
「温音」
「うん」
「ずっと言えていなかったことがある」彼は言った。「あの夜、多摩川で手を引いたのは、取引のためでも、颯真を不快にさせるためでもなかった」
「本心だって、そう言っていた」
「本心にも種類がある」時透は言った。「言葉にした瞬間、変質するものがある」
温音は彼を見た。
「じゃあ——」
「一週間後、あなたが盤面を収めてから教える」
ドアを押し開けた。
「それまでは、ただの社交辞令だと思っておいてくれ」
ドアが静かに閉まった。
病室に一人が残った。
温音はベッドの頭に背をもたせ、医療報告書を手に取り、しばらく眺めた。
三ヶ月。
折りたたんで枕の下に押し込んだ。
三ヶ月じゃない。三十年だ。
下を向いて、自分の手を見た。この手で自分の顔を傷つけた。離婚書類に署名した。三年間、手術台に押し付けられた。今日からこの手がやることは、別のことだ。
スマートフォンを手に取り、海外の番号に電話をかけた。
「人を調べてほしい」彼女は言った。「朝霞澄花。過去七年、金の流れを全部」
窓の外、最後の銀杏の葉が落ちた。
盤上に、最初の一石を置いた。
入院七日目、ロンドンのチームが到着した。
加藤医師はフィルムを見終え、長い沈黙のあと、口を開いた。数字は時透が言った通りだった。
温音は静かに最後まで聞いた。
「手術を選びます」
「ただし——」
「子供も諦めない」
「朝霞さん——」
「先生、あなたが私に自分を選ぶよう勧めたいのは分かっています。選びません」
加藤はしばらく彼女を見てから、ペンを置いた。
「説得しにくい患者だ」
「分かっています」
「では最後に一つだけ」加藤は言った。「なぜそこまでして、この子でなければならないのですか」
温音は俯いた。
あの雨の夜、陽性の検査結果を握りしめて病院の階段に一晩座っていた。あの紙の上の一行が、初めて教えてくれた——この世に、完全に自分だけに属する人間がいると。
「私は余分な存在だったから」彼女は言った。「この子は違う」
加藤はそれ以上聞かなかった。
ペンを取り直して、手術計画に書き込みを入れた。
「では二人分で準備する。全力を尽くします」
「ありがとうございます」
「礼はいい。これだけ大きな賭けをするなら、あなた自身も踏ん張ることだ」
温音は頷いた。
窓の外、東京の方角で夜が沈んでいった。
この一週間で、三つのことを終わらせた。澄花の過去の帳簿を調べさせ、川里枝にある「万が一」の餌を仕掛け、時透とあの「死」の段取りを固めた。
下を向いて、腹部に手を当てた。
「もう少し待って」小さく言った。「お母さんが取り戻すべきものを、一つずつ回収してから」
入院十一日目、夜明け前。
時透がドアを押し開け、一束の書類をベッドの頭に置いた。温音は書類に目をやらず先に聞いた。
「来た?」
「病院の外にいる」時透が言った。「弁護士、医療顧問、三村天、それに護衛が四人。あなたを連れ帰ると言っている」
「どこへ」
「黒崎宅邸。監護権は自分にある、治療は自分が引き継ぐと」
温音は何も言わなかった。ベッドの頭に背をもたせて、窓の外の夜明け前の空をしばらく眺めた。朝の光はまだ来ていない。空は灰色で、洗い切れていない布のようだった。
やがて笑った。軽く、ため息のように。
「やっぱり、この手しか知らない」
時透が彼女を見た。「来ることは分かっていたのか」
「来てもらうのを待っていた」温音は言った。「来なければ、この芝居、誰に見せる」
枕の下から医療報告書を引き出した。三ヶ月、視神経の圧迫、腫瘍。全ページを読み直して、畳んで元に戻した。
「調査の進みは」
「澄花の七年分の底は、半分まで掘った」時透が言った。「川里枝への餌も流した」
「うん」
頷いて、指先を腹部に静かに置いた。
「待つ」
「何を」
「彼が中へ入ってくるのを」
少し間を置いた。声は小さかったが、明確だった。
「入ってきたら、この目で見せる。私がどうやって全部を終わらせるか」
窓の外、最初の朝の光が差し始めた。
温音は病衣の襟を整えて、ベッドの頭に背をもたせた。目を閉じて、静かに待った。
