第八十七章 山中の子

鎌倉山ノ内の屋敷、書斎の灯りはまだついていた。

芳瀬は窓際の椅子に腰を下ろし、傍らには冷め切ったお茶が置かれたまま、手をつけようとしなかった。

扉が開いた。ノックはなかった。

颯真が険しい気配をまとって入ってきて、上着を椅子の背にかけ、彼女の前に立った。芳瀬は目を上げ、先に口を開いた。

「発表会のあの日のこと」声は低く、静かだった。「あれだけ大勢の前で——」

「俺にも言いたいことがある」颯真が遮った。

芳瀬は口をつぐみ、彼を見た。

「桐島雪人を抱き込んで、温音の経歴詐称を公表させようとした」颯真の声に抑揚はなかった。「その録音は今、温音の手にある。完全なものが、一言一句残らず」

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