第八十九章 鎌倉へ

カーテン越しに灰白の朝の光が差し込み、消毒液の匂いが空気に漂っていた。温音はすでに背を向け、ベッドサイドの棚を片づけていた——畳んだ毛布、使い終わった紙コップ、昨夜持ってきた紙袋。

手際よく、一つずつ。

颯真はその背中を見つめていた。頭痛はまだ続いていて、胸の奥の鈍い重さも消えていない。彼は何も言わず、ただ枕に身を預けた。

しばらくして、温音が片づけを終え、紙袋を提げて立ち上がった。その声は落ち着いていて、いつもの疎遠な響きを帯びていた。

「借金がまだ返し終わっていないのに、何かあったら困るんですけど。」

そう言って、踵を返した。

「死にやしない。」

颯真の声が背後から届いた...

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