第九十章 鎌倉の食卓

部屋の片づけが終わったのは、夕方も遅い時間だった。

時雄は新しい部屋をひとまわりして、持ってきた小さなリュックを窓辺に置き、赤い積み木をひとつ取り出して手の中で握った。その顔には、何かを考えているような、静かな表情が浮かんでいた。温音が着替えを箪笥にしまい、振り返ったとき、時雄がつま先立ちで耳元に近づいてくるのに気がついた。大事な秘密を打ち明けようとしているような顔をして。

「お母さん」

「うん」

「ひとつ、言っていい?」声をひそめて、壁にも聞かれたくないとでもいうように。「ぼく、前に……二回、悪いおじさんにおしっこしちゃったんだ」

温音の手が止まった。

「一回は足の上で、もう...

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