第207章 逃げた

彼の顔いっぱいに落ち込みが広がっているのを見て、怒っているわけじゃないとわかっていても、さすがに胸が痛んだ。

私は立ち上がって彼の前へ行き、顔を伏せて、そっと唇を落とす。

「神崎倫司もわかってるでしょ。今、会社がどんな状況か。少しだけ時間をちょうだい。すぐに――必ず」

すると、私の手はまた神崎倫司に握り返される。顔を上げた瞬間、彼はもう満面の笑みだった。

「冗談。拗ねたフリしてただけ」

「たださ、宮本良介に先を越されたくないだけなんだよ。君が会社を継いだばかりで忙しいのもわかってる。俺は待つ。ずっと」

そう言いながらも、目の奥に残る恨めしそうな色だけは、どうしても消えてくれない。...

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