第113章

『先輩、どうしてここに……?』

 安野香苗はぼんやりした意識を引き戻し、驚いたように問いかけた。

 ――この人、もう帰ったはずじゃなかったの?

 自分では、とうに立ち去ったものだと思い込んでいた。

『心配でさ。戻ってきた』

 藤原京也は短くそう言った。病室に入ったとき、ベッドの上の香苗が眉をひそめ、眠りの中で不安げにうわ言を漏らしていたのを見た。

 今夜の転落の件で、相当怯えているのだろう。そう察して、彼は起きるまでそばにいた。

 病室の灯りは落ちたまま。窓から差し込む月明かりだけが、白いシーツを淡く照らしている。静かで、ひんやりと冷たい夜だった。

『……どんな悪夢を見た? ...

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