第115章

早村千佐子の声は、さっきまでの陰湿さが嘘みたいに、いくぶん柔らかくなっていた。

『お母さん、安野香苗ってクズ、死んだ?』

受話器の向こうから飛んできたのは、安野月子の怨みを煮詰めたような声だった。娘がいきなりそんなことを口にしたせいで、千佐子は反射的にスマホを手で覆う。

『もう、うちのいい子。今、外よ? そんなの、周りに聞かれたいの?』

叱っているはずなのに、怒気は欠片もない。

月子も自分の失言に気づいたのか、すぐに調子を変えた。

『もう、お母さん。いいから、今どうなってるのか教えてよ』

甘えた声に、千佐子は怒るどころか、困ったように息を吐く。

――娘には、無条件で甘くなる。...

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