第129章

安野香苗の言葉が落ちた瞬間、リビングの空気がすっと冷えた。

江原司は顔色を変え、慌てて安野月子から手を離す。

寄りかかっていた月子は支えを失い、よろりと体勢を崩して、また床に転びそうになった。

「……お義兄さん!」

月子が小さく呼ぶ。潤んだ瞳の奥に、恨みと毒が渦巻く。

(安野香苗……このクズ)

わざとだ。外部の人間の前で、私たちの化けの皮を剥がしにきた。

安野香苗と江原司が離婚する――そんな噂は、すでに周囲にも広く知れ渡っている。

そのうえ、いまの江原司と月子の距離感。香苗の言葉。江原司の反応。

見ている連中が察するには、十分すぎた。

――離婚が成立する前から、別の女と出...

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