第140章

『どうした?』

 男が眉をひそめて問いかけると、前席の運転手が慌てて頭を下げた。

『申し訳ございません、藤原様。いま猫が飛び出してきまして……轢きそうになったので、咄嗟にブレーキを』

 運転手の胸はざわついた。まさか順調に走っていて、こんな事態に遭うとは思わない。踏み込みが遅れていたら、確実にぶつけていた。

 彼は恐る恐るルームミラーを見た。藤原京也の顔色がそこまで険しくないのを確認し、ようやく息をつく。

『……走れ』

 藤原京也は腕に走る痛みをこらえ、短く言った。

『はい、藤原様』

 運転手はすぐに車を発進させた。

 後部座席。安野香苗は藤原京也の胸元からそっと身を引き、...

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