第170章

藤原グループ社長室の空気は、ここ最近ずっと重かった。とりわけ社長秘書の野原正也は、頭頂部の密度が目に見えて薄くなり、出社するたび胃がきりきりする。それでも辞める勇気だけは、どこにもなかった。

『西区のあの土地の入札案、限界まで下げろ。木山グループに利益2割は残す』

藤原京也は式場から届いたブライダルカタログをぱらぱらとめくりながら、顔も上げずに言い放つ。

野原は横でメモを取りつつ、手が震えた。入札じゃない。これ、ほぼ献上だ。

『それと、来週のヨーロッパとのオンライン会議は延期。翔太の園で親子運動会がある』

『藤原様……』

野原が意を決して声を出すと、藤原京也は視線だけを上げ、淡々...

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