第42章

彼女が頑として譲らないと分かると、藤原京也もそれ以上は言わなかった。

「じゃあ……気をつけて」

安野香苗は頷く。

「うん。先に行ってて」

藤原京也の車が走り去り、香苗も目的地へ向かった。残りは交差点を一つ越えるだけ。歩いても数分だ。

夜風がさらりと肌を撫でる。安野香苗の胸に、久しぶりの安堵が灯った。

結婚して五年。外で働くのは、これが初めて。

ここからは、自分の仕事が持てる。自分の価値を上げて、翔太の親権を取り戻すために戦える。

そして――あのクズ男と、あの女。必ず、ふさわしい報いを受けさせる。

北園に着くと、香苗はフロントで個室の部屋番号を告げた。スタッフが会釈し、案内し...

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