第7章

藤原京也――安野香苗の先輩。まさに、選ばれた人間だった。

かつて安野香苗は、藤原京也と共同で医学界を震撼させる論文を発表したことがある。けれど、その先へは進めなかった。

江原司にプロポーズされたからだ。

家庭のぬくもりが欲しくてたまらなかった。たとえ自分の未来が約束されたキャリアを差し出すことになっても、迷いは一瞬もなかった。蛾が火に飛び込むみたいに、その恋に身を投げた。

入籍の約束をした、その前日。藤原京也が香苗を呼び出した。

今日になっても覚えている。

最悪なくらい険しい顔で、彼は自分から呼び出しておきながら、待ち合わせ場所に着いた途端ひと言も発さなかった。

二人は向かい合...

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