第74章

安野香苗がふいに黙り込んだのを見て、野原英子は唇をきゅっと結んだ。

そして、わざとらしく笑ってみせる。

「大丈夫だって。食べるときは食べて、飲むときは飲んでさ。いざとなったら、ちゃんと何とかなるって」

野原英子の家で半日ほど過ごし、夜になってから安野香苗は帰ることにした。

けれど家の近くまで来たところで、背中にまとわりつく気配に気づく。

――つけられてる。

安野香苗はスマホを取り出し、写真を撮るふりをした。画面の反射で、後ろの男の位置を確かめる。

胸の奥の震えを押し込み、そっとメッセージを1通送信。そこからはわざと遠回りを始めた。

この辺りの地形は頭に入っている。路地を折れ、...

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