第90章

安野香苗が翔太をどれほど大切にしているか分かっているからこそ、野原英子もそれ以上は何も言わなかった。

退院の件は、安野香苗が藤原京也にメッセージで連絡した。親子活動へ行くと知っても、彼は入院を続けろと無理強いしてこない。

『何かあったら、すぐ俺に電話しろ』

その一言に、安野香苗は口元をわずかに緩めた。

『ありがとう』

ほどなくして、野原英子が退院手続きを済ませてくれる。

午後、病院を出ると、安野香苗はその足で幼稚園へ翔太を迎えに行った。退院した母の姿を見つけた瞬間、翔太は顔をぱっと輝かせて駆け寄り、勢いよく胸に飛び込んでくる。

「お母さん! 退院したの?」

頭を撫でながら、安...

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