第96章

 その言葉が落ちた瞬間、安野月子の顔からさっと血の気が引いた。

 たちまち後ろめたさが込み上げたのか、彼女は反射的に顔を上げ、二階のほうへ視線を走らせる。

 その仕草ひとつで、取り巻いていた見物人の中にも疑念を抱く者が出始めた。

 ちょうどそのとき、こちらの騒ぎを聞きつけた江原司が駆けつけてきた。人垣をかき分けて進み、床に倒れたまま立ち上がれない安野月子の姿を目にした途端、男の顔に驚愕が広がる。

 彼は慌てて月子のそばにしゃがみ込んだ。

「月子、どうしたんだ」

 すると安野月子はたちまち目元を潤ませ、いかにも傷ついたふうに訴えた。

「私、香苗に少し話しかけただけなのに……どうし...

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