第2話

「今行くわ!」

ほとんど上ずった声で私は答えた。

台帳を抱えた両手が激しく震え、その重みが突然、とてつもないものに感じられた。浴室から聞こえる和也の声が家中に響き渡るようで、彼にも聞こえてしまうのではないかと思うほど、心臓が激しく高鳴った。

素早くスマートフォンを取り出し、重要なページを撮影し始める。最初の数枚は、手がひどく震えてデバイスをしっかり固定できないせいで、ぼやけてしまった。

もう一枚撮ろうとスマホの角度を調整したその時、汗ばんだ掌から滑り落ちそうになった。床に叩きつけられる音を想像して心臓が止まりそうになりながら、かろうじてそれを受け止める。

航路、日付、連絡先が記されたページが続く。これはまさに、大樹が必要としている情報だった。なのに、写真を一枚撮るごとに、なぜこれほど胃がねじれるように痛むのだろう?

「凜音?」

和也の声が、再び聞こえた。今度は、もっと近くからだ。

パニックが全身を駆け巡った。私は急いで台帳を閉じ、元あった場所に、元あった通りの角度になるよう記憶を頼りに戻した。

元の光景を再現しようと必死で、隣に置いてあったペンを直す指がもどかしい。

五年……。この瞬間を、私は五年も待っていた。この任務が終われば、ようやく大樹の元へ帰れるのだ。

書斎を抜け出してバーカウンターへ急ぎ、クリスタルのグラスを手に取ると、和也のお気に入りのウイスキーを注いだ。呼吸を整えようとしながらも、こめかみで脈が激しく打っていた。

「ごめんなさい、いいボトルを選んでいたの」

湯気の立ちこめるバスルームに飲み物を持って入りながら、私はさりげない口調を装って言った。

和也はまだ湯船に浸かっていたが、私が近づくと、その黒い瞳がじっと私の顔を探ってきた。彼の視線には何か読み取れないものがあり、肌が粟立つような不安を覚えた。

「はい、どうぞ」

グラスを彼に差し出した。

彼がそれを受け取るときに指先が触れ、ふと、何でもないことのように彼が言った。

「書斎のドアが開いていたようだが。閉めた記憶があるんだがな」

顔に血が上り、一瞬、部屋がぐらりと揺れるような感覚に襲われた。めまいを覚えながらも、私は必死で彼の視線を逸らさなかった。

「風のせいかしら? それか、山下さんがお掃除に入ったとか?」

言葉が、早口にこぼれ落ちた。

和也はゆっくりと頷いたが、その目は私の顔から離れなかった。

「そうかもしれんな」

そして彼は、まるでそんな会話はなかったかのように、ゆっくりとウイスキーを一口飲んだ。私は、そっと息を吐き、疑いを逃れられたと思った。

だが、あの黒い瞳が私のすべてを見透かしているような感覚は、どうしても拭い去れなかった。

二十分後、和也はシルクのバスローブを羽織り、濡れた黒髪のまま浴室から出てきた。今でさえ私の息を詰まらせる、あの静かな自信に満ちた足取りで彼は歩く。

寝室に入ると、彼の視線はすぐに、ベッドの端に腰掛けてスマートフォンをいじっている私に注がれた。

私は慌ててそれを脇に置いた。

「少しは楽になった? お湯に浸かれば、背中の怪我にもいいはずよ」

和也は近づいてきて、考え深げな表情で私を注意深く見つめながら、ベッドの端に腰掛けた。

「今夜の君は、少し神経質になっているようだ」彼は、静かに言った。

私は彼の視線を避け、掛け布団を撫でつけて気を紛らわせた。喉が、からからに乾いていた。

「疲れているだけだと思う。今日は、長い一日だったから」

和也はゆっくりと頷いたが、その瞳には明らかな疑念の色が浮かんでいた。

「確かに、そうだな」

彼がそれ以上追及してこなくても、その疑念が重い霧のように空気中に漂っているのを感じた。

私は急いで話題を変えた。

「明日の予定は詰まっているの? 最近、すごくプレッシャーを感じているように見えるけど」

和也は、こめかみをもんだ。

「M市の状況が複雑化していてな。明日の朝には現地へ飛んで、北地区の輸送問題を直接処理するつもりだったんだ」

冷たい理解が、全身を駆け巡った。

「M市に行くの? でも、てっきり……」

「先にディナーで驚かせようと思っていたんだが……」彼の声には、苛立ちが滲んでいた。「いくつかのルートが侵害されて、すぐに新しいルートを確保する必要がある。まあ、現地へ行く前に、まずはこちらで対応できるかもしれんが」

私はナイトスタンドから水の入ったグラスを彼に手渡しながら、高鳴る思考を隠そうと努めた。

「他のファミリーが干渉してきているの?」

声に、純粋な心配を込めるようにした。

和也は、意外そうに顔を上げた。

「急にファミリーの事情に興味を持つとはな」

彼の視線には、値踏みするような色が宿っていた。

私は肩をすくめた。

「あなたの仕事、理解したいもの。だって……」私は少し声を潜めた。「私は、あなたの妻だもの」

和也は、わずかに頷いた。

「もう寝よう。明日は忙しくなる」

隣で横たわる和也の深く、規則正しい寝息を聞きながら、私は身じろぎ一つせずにいた。ナイトスタンドのデジタル時計は午前二時十七分を指している。彼がようやく眠りについたことは、確実だった。

慎重に枕の下からスマートフォンを取り出し、大樹へ写真を送信した。

『交易ルート、入手したわ。思ったより簡単だった。もうすぐよ』

大樹からの返信は、すぐだった。

『いつもながら完璧な仕事だ、凜音。これ以上ないタイミングだ。もうすぐ全ての障害は取り除かれ、君はいるべき場所――俺の元へ帰ってくる』

私は彼の返信を見つめながら、大樹の優しい瞳と温かい抱擁を思い出していた。胸に温もりが広がり、まとわりつく罪悪感を押し流していく。

もう一度、隣で安らかに眠る和也に目をやった。一瞬の後悔が胸をよぎったが、すぐに大樹との未来への期待に取って代わられた。

私は、軽くスマートフォンの画面に触れた。

「もうすぐ……」

そして、眠りに落ちた。

翌朝、目が覚めるとベッドは空で、和也の枕の上にはメモが置かれていた。

『M市行きは延期。急ぎの国内案件を処理する。帰りは今夜遅くなる。もう君が恋しいよ』

彼の優雅な筆跡を見つめていると、安堵と罪悪感が入り混じった複雑な感情が胃の中で渦巻いた。彼の突然の不在は私により多くの自由を与えてくれたが、同時に、彼の存在がどれほど私の日常の一部になっていたかを思い知らされた。

その日の朝、大樹から電話があった。彼の声は、珍しく緊張していた。

「凜音、今夜会う必要がある。我々の仲間との間に、君の見識を必要とする……厄介な問題がいくつかあってね」

彼の口調に、かろうじて抑えられた勝利の色が聞き取れた。

「私の任務は完了したの? いつになったら私たちは……」

「もうすぐだ、愛しい人。今夜は月影亭に来てほしい。町にある洒落た店だ。君が提供してくれた情報は既に見せてあり、彼らも感心している。だが、情報源を直接確認し、我々の同盟を最終決定するために、君に直接会いたいそうだ」

私はためらった。

「彼はM市へ行くはずだったんだけど、延期になったの。急ぎの国内案件を片付けていて、帰りは遅くなるそうだから、時間はあるけれど……」

大樹の声は、より切迫感を帯び、説得力のあるものになった。

「それなら、絶好のタイミングだ。凜音、これはただの祝賀会じゃない。戦略なんだ。我々の内部情報源が本物で信頼できることを、彼らはその目で見る必要がある。君がそこにいることで、我々が懸命に築き上げてきた協力関係が確固たるものになる。今夜を境に、俺たちのすべてが変わるんだ」

その夜、私は月影亭に到着した。優雅なレストランは薄暗く、クリスタルのシャンデリアがマホガニーのテーブルに温かい光を落としていた。大樹は個室で待っており、私を見ると顔を輝かせた。

「凜音!」

彼は私を抱きしめたが、その抱擁はあまりにもきつく、必死すぎるように感じられた。

「完璧な仕事だった」

私は彼の慣れ親しんだ温もりに身を委ね、彼と共にいるときにいつも感じていた安心感に包まれた。

「さあ、君に会わせたい人たちがいるんだ」

大樹はそう言って、私を数人の身なりの良い男たちの方へ導いた。

「諸君、こちらが清水凜音――話していた人物だ」

計算高い目をした年配の男が、私を品定めするように見つめた。

「それで、これが君の内部情報源かね、伊藤大樹?」

彼の言葉を完全に理解する前に、冷たい声が空気を切り裂いた。

「随分と、面白い集まりだな」

振り返ると、戸口に和也が立っていた。その表情は、死人のように静まり返っていた。私の血は、氷と化した。

大樹の腕はまだ私の肩に回されており、彼がこわばるのを感じた。彼の微笑みはほんの一瞬だけ揺らいだ。パニックのようなものが一瞬顔をよぎったが、すぐに元の位置に戻されたものの、今やそれはひきつって見えた。

「藤原さん。これは……驚きました」

「驚き?」

和也の黒い瞳は一同を見渡し、それから私の肩にある大樹の手に固定された。

息が詰まった。部屋が急に息苦しくなり、視界の端がぼやけた。

彼はまっすぐこちらへ歩いてくると、冷静に、しかし断固として、私から大樹の腕を取り払った。

「伊藤大樹、何か勘違いがあるようだ」

私は二人の間に挟まれ、心臓が誰にでも聞こえるほど大きく鳴り響いているのがわかった。

「和也、私はただ――」

「ただ、何だ、凜音?」

彼の声は静かだったが、その下に鋼のような響きが聞き取れた。

大樹がわずかに前に出て、顎を引いた。

「彼女は旧友に挨拶をしていただけだ。何も問題はないだろう?」

部屋の緊張感は、息が詰まるほどだった。私が無意識に和也のスーツの袖を掴むと、時間がゆっくりと流れるように感じられた。

「和也、お願い。大樹は……母と私にとって、家族のような人なの」

和也の視線は、大樹の顔から決して離れなかった。

「家族」彼はゆっくりと繰り返し、その声には危険な響きが帯びていた。「それは、興味深いな」

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