第8話
伊藤大樹の表情が一瞬だけ変わった。今まで見たこともない何かが、その顔をよぎったのだ。だが、すぐにいつもの穏やかな笑みが戻る。
「凜音、妙なことを聞くんだね」彼はテーブル越しに手を伸ばし、私の手に触れてきた。「あの夜のことが、今でもどれだけ俺を苦しめているか知っているだろう。病院に従兄を見舞っていた時に、あの騒ぎを聞いて……」
私はその手を振り払い、彼の目をまっすぐに見つめた。
「大樹、父の指輪を調べたの。中にあったマイクロSDカードを開けた」
今度は、即座に彼の表情が変わった。その目は険しくなり、心配を装っていた仮面が完全に剥がれ落ちる。
「何のSDカードだ? 凜音、何を言っ...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1話
2. 第2話
3. 第3話
4. 第4話

5. 第5話

6. 第6話

7. 第7話

8. 第8話


縮小

拡大