第1章 殺人犯の娘

パァン——!

人の行き交う喫茶店で、少女の白い顔に重い平手打ちが叩き込まれた。

真っ赤に腫れた右頬を押さえ、彼女の瞳は虚ろで、反撃する気など微塵も感じさせない。

周りの人々は、侮蔑と嘲笑の入り混じった視線を彼女に向け、嘲笑うばかりで、誰一人として彼女を庇う者はいなかった。

自業自得だからだ。

誰のせいで、彼女が中村良太郎の娘であるというのか。

「中村奈々、あんたの父親がどれだけの人を死に追いやったと思ってるの。よくもあたしに指図できたわね? あたしがあんたなら、どの面下げて生きていけるっていうの!」と、森田杏莉が嘲る。

中村奈々は俯いて非を認め、蚊の鳴くような声で言った。「申し訳ありません、森田さん。失言でした。お詫びいたします」

「詫びる? それが詫びる態度? 城南までアトリエ・ドゥ・シュクルのケーキを買いに行かせて、さんざん待たせた挙句、こんな不味いケーキ買ってくるなんて! あたしが捨てちゃいけないわけ? 笑わせるわ!」森田杏莉は怒りに震えた。「あたしは森田家の次女で、あなたたちの黒田社長の婚約者なのよ! ケーキ一個捨てたくらいで、百個千個捨てたって、あんたにどうこう言われる筋合いはないの!」

森田杏莉の言葉を聞き、中村奈々は目を伏せて力なく笑った。

今の自分に、彼女へ腹を立てる度胸などあるはずもない。

たとえ昔の中村家の長女であったとしても彼女に逆らう資格はないのに、ましてや父が逮捕収監され、母も心労で入院している今となってはなおさらだ。

平手打ち一発どころか、十発だって甘んじて受けなければならない!

中村奈々が黙り込むのを見て、森田杏莉はさらに苛立ち、手近にあったコーヒーカップを掴んで彼女の頭に叩きつけた。「人殺しの娘のくせに、なんで死なないのよ!」

コーヒーカップは砕け散り、熱湯が中村奈々の白く滑らかな頬に飛び散って、たちまち火傷のような痛みが走った。

中村奈々は唇を固く結び、声を上げることもできず、ただ目の前がくらむのを感じた。

森田杏莉は彼女のその可憐で哀れな様子にますます腹を立て、テーブルの上のバッグを手に取ると、再び手を上げようとした。だが、その動きはドアを開けて入ってきた男によって遮られた。

森田杏莉は振り返ってその男の姿を認めると、目に喜びの色を浮かべ、すぐさま彼のそばへ駆け寄り、その腕に絡みつきながら甘えた声を出した。「謙志、やっと来てくれたのね! あたし、この女のせいで頭にきちゃった」

男はバラの花束を抱えて入ってくると、それを森田杏莉に手渡し、彼女の長い巻き髪を愛おしそうに撫でながら、穏やかな声で言った。「ベイビー、こんな奴のことで腹を立てる必要はないさ。しょせんは表舞台に立てないただの秘書だ。君に跪いて土下座させてやるよ」

中村奈々はコーヒーの染みがついた姿で、顔を真っ赤にして、みすぼらしくそばに立っていた。

彼の水のように優しい言葉を聞いて、全身が震え、思わず男の方を一瞥した。

陽光が巨大な窓から差し込み、男の身体を照らし出す。広い肩に引き締まった腰、すらりと伸びた長身、彫刻のように整った目鼻立ちは、神様さえも偏愛した作品のようだ。

中村奈々の目の奥がじんと熱くなり、胸が苦しくなった。

この男こそ黒田謙志。彼女の現在のスポンサーであり、今朝、会社で彼女と肌を重ねたばかりの黒田家の長男。

今、彼は、自分の婚約者に跪いて謝罪しろと彼女に命じている。

「耳が聞こえないのか? 杏莉に跪いて謝罪しろと言ったんだ!」黒田謙志の表情が冷たくなった。

中村奈々は唇を固く噛み締め、目元を赤くし、身体を微かに震わせながらも、意地を張って跪こうとしなかった。

黒田謙志は彼女のその様子を見て、喉が引き締まるのを感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。

「聞こえなかったの? 謙志があたしに土下座しろって言ってるのよ。さもなきゃ、彼にあんたをクビにさせるから。そしたらあんた、何で母親の治療費を払うつもり!」森田杏莉は中村奈々を見据え、横柄に命じた。

中村奈々は深呼吸し、歯を食いしばる。涙が目尻から流れ落ちた。

「申し訳ありません」中村奈々はついに耐えきれず、嗚咽を漏らしながら森田杏莉に謝罪すると、そのまま頭を垂れ、二人の前にゆっくりと跪いた。

森田杏莉の言う通りだ。もし黒田謙志を怒らせてしまえば、生活の保障すらなくなる。そうなったら、病院で重い病に苦しむ母や、弟の学費、そして父が遺した高額な借金はどうすればいいのだろう?

「中村奈々、あんたって本当に骨のない奴ね!」森田杏莉は鼻で笑った。

中村奈々は顔を上げず、涙が目尻から膝の上へと滑り落ちた。

黒田謙志は床に跪く中村奈々を見つめていた。

中村奈々、中村奈々、中村奈々……。

黒田謙志は心の中で罵る。その名前が呪いのように脳内で響き渡り、全身がじりじりと熱を帯びてくる。

「杏莉、先に帰っていてくれ。会社でまだ処理することがある」黒田謙志は思考をまとめ、淡々と命じた。

「うん、わかったわ、謙志」森田杏莉は黒田謙志を見て、目に不満の色を滲ませたが、やがて頷くと、甘ったるい声で応え、喫茶店を後にした。

黒田謙志は中村奈々に歩み寄り、彼女を見下ろす。純白のワンピースがコーヒーで濡れ、身体にぴったりと張り付いて完璧な曲線を描き出しているのを見て、彼は目を細め、その眼差しは次第に深みを増し、心に邪な炎が燃え上がった。

中村奈々は顔を上げて彼を見つめた。「黒田社長、まだ何か御用でしょうか?」

黒田謙志は黒い瞳を細める。「俺が何をしたいか? お前はどう思う?」

言うや否や、彼は中村奈々の腕を掴んで喫茶店のトイレへと引きずり込んだ。「もちろん、お前を抱くに決まってるだろう!」

バン——!

彼は足で個室のドアを蹴り閉め、中村奈々をドアに押し付けた。

男の大きく逞しい身体が彼女に密着し、灼熱の吐息が彼女の顔にかかる。「その哀れな様を見ると、たまらなくなるな……」

言い終えると、彼の薄い唇が彼女の唇を覆い、罰を与えるかのように激しく噛みつき、貪るように吸い付いた。

中村奈々は目を大きく見開き、間近にある端正な顔を信じられない思いで見つめ、頭の中が真っ白になった。

黒田謙志のキスはますます性急になり、まるで彼女を砕いて腹の中に収めてしまいたいとでもいうようだ。

彼は飢えた獣のように、彼女の口内の甘美さを荒々しく奪い去っていく。

中村奈々の両手は彼によって壁に押さえつけられ、抜け出すことができない。しかも、ひどく痛む。

「ん……離して……痛いです……」

彼女のか細い訴えを聞いても、彼は止めるどころか、さらに激しく攻め立てた。

中村奈々は次第にキスで思考能力を失い、ただ無意識に彼の拘束から逃れようともがくだけだった。

彼女の抵抗は黒田謙志を一層興奮させ、片手で彼女の尻を支え上げると、もう一方の手で彼女のシャツのボタンを解き始めた。

彼が彼女のシャツを脱がせようとした、まさにその時、外から突然ドアの開く音がした。

誰かがトイレに入ってきたのだ。

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