第104章

中村奈々は黒田謙志の胸に身を預け、力強く脈打つ心音に耳を傾けていた。そうしていると、胸の奥に澱んでいた悲愴感が嘘のように消えていくのを感じる。

彼女は顔を上げ、涙の跡が残るその小さな顔で、謙志の端正な顔立ちを真剣な眼差しで見つめた。

「黒田さん……何はともあれ、今日は助けてくださってありがとうございます」

もし黒田がいなければ、中村美知子と中村智に追い詰められ、本当にここから飛び降りていたかもしれない。

奈々は世間の冷たさを嫌というほど味わってきたが、だからといって感謝の心を失ったわけではなかった。

黒田への感謝は、紛れもない本心からのものだ。

黒田は胸の奥がどうしようもなく疼く...

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