第126章

中村奈々はスマートフォンを取り出した。画面には黒田謙志の名前が表示されている。一瞬の躊躇い。彼女は高橋文也にすまなそうな苦笑を向けると、病室を出て廊下へ移動し、通話ボタンをタップした。

電話が繋がった瞬間、受話口から氷のように冷たく、それでいて激しい怒りを孕んだ声が響いた。

「中村奈々、どこへ消えた? なぜ昨日はホテルに戻らなかった」

中村奈々は呆気にとられたが、すぐに我に返って弁明した。

「申し訳ありません。急用ができてしまって、先に河市に戻りました」

黒田謙志は腹の底で煮え繰り返る怒りを抑え込み、問い詰める。

「そんなに急ぐ用事とは何だ」

中村奈々はくちごもった。河市に戻っ...

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