第2章 早くお金を持って来い
中村奈々ははっと我に返り、慌てて目を開けて黒田謙志を押し返した。「だめ、ここで……人に見られちゃう……お願いだから……」
黒田謙志は耳を貸さず、彼女の衣服をすべて剥ぎ取り、雪のように白い豊満な胸と、華奢な腰を露わにした。
「黒田謙志……離して……んっ……んんっ……」
「静かにしろ……」黒田謙志は彼女を反転させて便器の上に押し付けると、身を屈めてその白い首筋に吸い付いた。大きな手は彼女の凹凸のある曲線を撫でまわし、誘惑するように囁く。「ベイビー……」
その声は濃密な渇望と欲念に満ちており、まるで悪魔のように彼女を惑わせた。
中村奈々は魂が浮遊していくような感覚に陥った。痺れるような電流が体を駆け巡り、全身が蕩けて春の水と化していく。
「黒田謙志……んんっ……ああぁっ……」
中村奈々の声は掠れ、言葉を発するたびに震える呻きが混じった。
彼女の艶めかしい喘ぎ声を聞き、黒田謙志は一気に血が滾り、もう我慢できずに彼女の身体を貫いた。
中村奈々の爪が肉に食い込み、歯を食いしばって懸命に不快感を堪える。
その様子を見て、黒田謙志は一層力を込めて彼女を苛んだ。
外にいた者たちは個室の中から聞こえる物音に、中で何かの運動が行われているのではないかと様々に憶測していた。
「ちぇっ……今の若い子は開放的だな。公衆の面前でこんな刺激的なプレイをするなんて」
「はははは、この娘きっと処女だろ!」
「だろうな。ほら、つまらなさそうに鳴いてやがる。見るからに新鮮な品だ」
隣の個室から、数人の下卑た男たちの話し声が聞こえ、時折汚らわしい言葉も飛び交っていた。
中村奈々はそれらの罵詈雑言を耳にし、顔面を蒼白にさせながら、必死に逃れようともがいた。
しかし、彼女の両足はとうに力が抜けきって泥のようになり、今の体重を支えることすらできない。ただ無力に便器の上に横たわり、黒田謙志のなすがままになるしかなかった。
「うぅ……お願い……離して……」
中村奈々は絶望して泣きながら懇願し、目尻から涙が糸の切れた真珠のように滑り落ちた。
こんな屈辱を味わうくらいなら、今すぐ死んだほうがましだと思った。
だが黒田謙志は彼女の泣き声や懇願に全く意を介さず、むしろますます狂ったように、獣のごとく彼女を蹂躙した。
彼が突き上げるたびに、彼女は耐えがたい痛みに襲われる。その両手は無力に黒田謙志の広い胸を叩き、彼の行為を止めさせようとした。
しかし、彼女の拳は彼に少しのダメージも与えられず、むしろ彼の征服欲を煽るだけだった。
中村奈々が下半身のぐっしょりとした粘り気を感じる頃になって、ようやく黒田謙志はゆっくりと彼女を解放した。
彼は口の端に満足げな笑みを浮かべ、唇を舐める。「最高だ……」
中村奈々は冷たい便器の蓋の上に突っ伏し、必死に息を整えた。
黒田謙志は彼女を見下ろし、その瞳に暗い光を宿らせて言った。「今日は機嫌がいいから、これくらいで勘弁してやる。だが次、俺の婚約者に逆らったら……どうなるか分かってるな」
そう言うと、彼は財布からカードを一枚抜き出して床に投げつけ、中村奈々の頬を軽く叩いた。「今月の十万だ。これからはもっと聞き分けが良くなることだな。呼び出したらすぐ来い! お前の父親が作った一千万の借金を、一日でも早く返し終えるように努力するんだな!」
その言葉を吐き捨てると、彼は革靴を鳴らして大股でトイレから出て行った。
中村奈々の身体は屈辱に微かに震えていたが、やがて黒田謙志が床に投げ捨てたカードを拾い上げると、ゆっくりと立ち上がり、よろめきながらトイレを出た。
中村奈々は病院へ向かい、そのカードで母の滞納していた医療費を支払った。
病室の前まで来ると、中から母である中村美知子の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
中村奈々の神経は瞬時に張り詰め、ドアノブを握る手には青筋が浮かび、関節が白くなる。
母親をこれほど喜ばせることができるのは、この世にただ一人しかいない。彼女の弟、中村智だ。
やがて、彼女は半開きのドアを押し開け、まっすぐに中へ入っていった。
案の定、中村智がベッドの縁に腰掛け、母と親しげに談笑していた。
中村智は不意に入ってきた中村奈々に視線を上げ、その瞳の奥に一瞬、嘲りの色がよぎった。
しかし、その嘲りはすぐに消え去った。
中村智は満面の笑みで中村奈々に挨拶した。「姉さん、来たんだ」
中村奈々は冷ややかに智を一瞥し、頷いた。
「私が普段からそうやって教えているとでも言うの?」中村美知子は中村奈々が自分の可愛い息子をぞんざいに扱うのを見て、瞬く間に腹を立て、鋭い声で叱りつけた。「弟はもうすぐ大学受験だっていうのに、わざわざお見舞いに来てくれたのよ。あなた、その態度は何なの?」
中村智は慌てて中村美知子の手を取り、なだめるように言った。「母さん、もういいよ。姉さんを責めないで。姉さんは昔からこういう性格じゃないか」
「はあ、やっぱりうちの可愛い息子は心が広いのね」中村美知子は感心したように中村智を一瞥すると、再び中村奈々を睨みつけ、罵った。「この反抗的な娘。弟の指一本にも及ばないわ」
中村奈々は母親のえこひいきにはとっくに慣れており、一言も反論しなかった。
彼女はただ黙々と病室のゴミを片付け、淡々と言った。「滞納してた薬代は払っておきましたから、安心して療養してください」
「こんなに時間が経ってから支払いに行くなんて、本当に恥ずかしい」中村美知子は鼻で笑うと、すぐさま表情を和らげて中村智に微笑みかけた。「智、あなたの絵が全国二位になったんですってね。本当に母さんの誇りよ! さすがは私、中村美知子の息子ね。私の良い遺伝子を受け継いでるわ!」
中村美知子は二十数年前、名の知れた画家だった。しかし、当時幼かった中村奈々のせいで手を怪我し、二度と絵が描けなくなったのだ。
それ以来、彼女は中村奈々を心底憎み、後に生まれた中村智にすべての期待を寄せていた。
中村智の笑みがこわばり、無理やり笑みを作った。「ありがとう、母さん。大したことじゃないよ」
彼らの会話を聞き、中村奈々の動きが一瞬止まった。中村智の腕前で、自分の半分にも満たないのに、全国二位を取れるはずがない。
「ああ、そうだわ。あなた、下半期にはもう芸大の試験でしょ? 準備はどう?」中村美知子は心配そうに尋ねた。
その話に触れられると、中村智の顔に困惑の色が浮かんだ。
彼はおずおずと服の裾を弄り、俯いて、言い淀んだ。「母さん、実は僕……僕……」
中村智が口ごもる様子に、中村美知子はいてもたってもいられなくなった。「智、はっきり言いなさいよ。一体どうしたの?」
中村奈々は戸口に立ち、この偽善的な母子の芝居を静かに眺め、口元に皮肉な笑みを浮かべた。
「母さん、先生が言うには、僕の実力で中央美術学院に合格するのは、まだ少し危ないんだって。中央美術学院の教授がやってる合宿に参加すれば、十中八九合格できるらしいんだけど」中村智は目を赤くし、悔しそうに唇を噛んで言った。
その言葉に、中村美知子は一瞬呆然とし、すぐに心配そうに言った。「どうして? あなたは全国二位になったんでしょう?」
「母さんは知らないんだよ。中央美術学院は派閥だらけで、コネがないと入れないんだ。この合宿は、先生に袖の下を渡して枠を確保するためのものなんだよ! でも、すごく高くて、二十万もするんだ。うちの今の状況じゃ……」中村智はそう説明し、涙をぽろぽろとこぼした。
「お金がない? あなたの姉にあるじゃない!」中村美知子は視線を戸口の中村奈々に向けた。「中村奈々、早くあなたの弟に二十万渡しなさい!」
中村奈々は無表情で、まるで聞こえないふりをしていた。
二十万? 自分が銀行だとでも思っているのか。
またこの、可哀想なふりをして同情を買う手口だ。中村奈々は見慣れており、相手にするのも面倒で、背を向けて立ち去ろうとした。














