第260章

「高橋文也……高橋先生?」

 水原瀬那は目を丸くして、山下富美子を凝視した。

「彼、婚約してもうすぐ結婚するんじゃなかったの?」

 水原瀬那が河市を離れた頃、高橋家と上杉家の縁談は世間を大いに賑わせていた。あまりに派手な騒ぎだったので、知らぬ者などいないほどだったのだ。

「それが、破談になったのよ」

 山下富美子は肩をすくめ、どこか楽しげな表情で言った。

「知らないでしょうけど、ここ数年で高橋先生が高橋家を急成長させて、今や昔とは比べものにならないほどの力を持ったの。上杉家なんて、もう彼の首輪を握ってはいられないってわけ」

 それを聞いて、中村奈々の心臓がドクンと跳ねた。

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