第266章

中村奈々の唇に浮かんだ笑みは、隠そうとしても隠しきれない喜びそのものだった。

黒田謙志の視線は、真っ先に中村奈々へと注がれた。視線が絡み合う。彼は口の端を吊り上げ、声に出さずに唇の動きだけで告げた。

――『来たぞ』と。

中村奈々は目を伏せ、彼から視線を逸らす。だが、胸の奥底から湧き上がる高揚感は、どうしても抑えきれなかった。

黒田謙志の姿を認めると、黒田亘もまた笑みを浮かべた。その笑みには奇妙な深みがあり、待ちわびていた獲物がようやく現れたかのような響きを含んでいた。

黒田祥太は人知れず安堵の息を吐いた。よかった、救世主の到着だ。

彼は弾かれたように立ち上がり、媚びるような満面の...

ログインして続きを読む