第268章

黒田謙志はタブレットから視線を外し、口元に嘲笑を浮かべた。

「真っ先に頼ったのは、俺じゃないだろう?」

中村奈々はその横顔を一瞥し、何事もなかったかのように視線を戻す。

黒田謙志が長い目で見て獲物を泳がせようとしていることは、彼女にはお見通しだった。

黒田謙志は、受話器の向こうで大城佑美が並べ立てる弁明や機嫌取りを静かに聞いていたが、最後にこう告げた。

「その件については、一度事情を確認させてもらう。今は即答できない」

通話を終え、彼はしばし沈黙したまま座っていたが、やがて顔を上げて中村奈々を見た。

「俺と彼女は……」

「要点を言って」

中村奈々はスマホをしまい、澄んだ瞳で...

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