第269章

有川紘樹は黙ってうつむいていた。

松本が慌てて立ち上がり、席を譲る。

「中村さん、こちらへどうぞ」

中村奈々も遠慮せず、痛む足を引きずりながらゆっくりと腰を下ろした。

有川紘樹の視線が彼女の足に向けられると、その頭はさらに低くなった。

「あの……中村さん、何か飲みますか? 買ってきますよ!」

鈴木が気を使って声をかける。

「ありがとう、お気遣いなく」

中村奈々は微笑んで断りを入れると、有川紘樹の方へ向き直り、単刀直入に切り出した。

「まさか私が来るなんて、思ってもみなかったでしょう?」

有川紘樹は椅子に座ったまま、かつてはあんなに威圧感のあった巨体を、今はまるで叱られた子...

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