第278章

中村奈々は一瞬呆気にとられたが、すぐに意を決してドアを開け、車に乗り込んだ。

会社の玄関先は人の出入りが激しい。同僚も大勢いるし、今の彼女は社内でちょっとした有名人だ。黒田謙志と一緒にいるところを見られて、これ以上余計な注目を集めるのは御免だった。

「どうしてまた来たんですか?」

車が発進するやいなや、彼女は眉をひそめて問い詰めた。

黒田謙志は口元に笑みを浮かべ、横目で彼女を一瞥した。

「聞いたぞ。今日、大枚はたいて新入りの同僚にアフタヌーンティーを奢ったんだってな?」

中村奈々は頬を赤らめ、ふいと顔を背けて平静を装った。

「大枚なんて……これくらいのはした金、私だって出せます...

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