第282章

「ふっ」

黒田謙志の口元に、うっすらと笑みが浮かぶ。どれだけ中村奈々にきつく当たられても、全部受け止めてしまいそうな、穏やかな顔つきだった。

そんな黒田謙志に、中村奈々は正直、少し驚いていた。

けれど、今の彼女にそんなことを掘り下げて考える余裕はない。頭の中は後悔でいっぱいで、胸のあたりがぎゅうっと痛む。

なんであんな挑発に、あっさり乗っかっちゃったんだろう。おかげで森田美波とホームパーティーに行った相手と、自分まで流されるように――

じゃあ、私は、一体何?

ここまできてから文句を言い出したところで、かえって自分がどれだけ彼を意識しているか、必死で訴えているみたいだ。

奈々は布...

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