第286章

「この“も”って、なかなか微妙な使い方だな」

男はどこか気だるげな瞳を細め、口元にうっすら笑みを浮かべる

「ってことは……ここには、他に誰がいるんだ?」

中村奈々は少し考えてから、観念したように答えた

「高橋文也。さっきの……」

「先生」と言おうとしたその瞬間、黒田謙志が「ああ~」と間の抜けた声を漏らし、指先でトントンと自分のこめかみを軽く叩く

「思い出した。お前の元カレ、だろ」

中村奈々は眉をひそめて彼を見た

――やっぱり知ってた。わざわざここで待ち構えてたってわけね。

黒田謙志は一歩踏み出すと、彼女の手首をつかみ、そのままぐいっと引っ張った

「ちょっと聞きたいことがあ...

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