第287章

黒田美紀子は大げさに身を乗り出すと、二人の背後にある個室を覗き込み、口パクで「わお」と言った。

中村奈々はその頬を微かに染め、慌てて弁解する。

「河市から友人が来ていて、その歓迎会なんです。美紀子さんたちがここにいらっしゃるとは知らなくて」

黒田美紀子は目を細めて笑う。

「どんな友達? 男、それとも女?」

「……男性、です」

「元カレ」とは言い出しにくかった。高橋文也に対する感情は、少女時代の淡い好意に近いものであり、真の意味での男女の愛とは違っていたからだ。

「ふうん、男ねえ」

黒田美紀子はゆっくりと黒田謙志に視線を移す。

「どうりで、ここに来てからずっと上の空だったわけ...

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