第299章

「どうして、ここに?」

 中村奈々は驚きを隠せずに尋ねた。

 黒田謙志はそれには答えず、彼女のドレスに広がる赤ワインのシミに視線を落とすと、瞬時に眉をねじ曲げた。凍てつくような声が響く。

「誰の仕業だ」

 その背後から、慌ただしい足音が近づいてきた。

「葵!」

 その声を聞いた瞬間、葵は勢いよく顔を上げ、見る見るうちに目元を赤く染めた。駆け寄ってきた男に向かって両手を広げ、涙声で叫ぶ。

「和哉……っ」

 光岡和哉はすぐさま彼女を抱き留め、矢継ぎ早に問いかけた。

「どうしたんだ? 何があった?」

 その口ぶりは、まるで葵がこの世の終わりのような被害を受け、自分が正義の鉄槌を...

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