第3章 逃げられない

「中村奈々!」中村美知子は苛立たしげに怒鳴った。「耳が聞こえないの? 私の話を聞いてなかったわけ?」

「母さん」中村奈々は足を止め、中村美知子に背を向けたまま言った。「このお金は、私は出さない」

「このクソガキ! 羽振りが良くなったからって、私の言うことを聞かなくなったっていうの?」中村美知子は怒りのあまりベッドから飛び降り、中村奈々の腕を掴んで力任せに殴りつけた。

中村奈々は母親の殴打に耐え、頑なに唇を引き結んだ。しばらくして、ようやくかすれた声で言った。「母さん、忘れたの? 私は大学中退よ。どこでいい仕事が見つかるっていうの? あなたの医療費を払うために、私はもう……父さんが事故に遭ってから、あなたはすぐに入院して、家は差し押さえられた。私がどこに住んで、生活費をどこから得ているか、一度でも聞いたことある? あなたの目には中村智しか映ってない。私のこと、考えたことあるの?」

中村美知子は途端に言葉に詰まり、悔しそうに中村奈々の手を放すと、虚勢を張って言った。「ごちゃごちゃ言い訳しないで! あんたがお金を持ってるのは知ってるんだから。さっさと弟のために二十万持ってきなさい。弟の学業に支障が出たら、ただじゃおかないからね!」

その言葉を聞いた瞬間、中村奈々の頭の中で何かが轟き、体がぐらりと揺れた。

彼女は目を閉じ、こみ上げる感情を必死に抑え、何度か息を詰めてようやく胸の中の淀んだ空気を押し戻した。

「母さん、やっぱり知ってたんだ」中村奈々は深く息を吸い、ゆっくりと目を開け、どこか狼狽している中村美知子の顔を見つめた。「私のこのお金が……ってこと、とっくに知ってたんだね」

それが、屈辱と自尊心と引き換えに手に入れたものだということを。

中村奈々は喉が苦くなるのを感じ、唾を飲み込むのもやっとだった。「知ってたなら、どうして平気な顔で、中村智の合宿費用にあのお金を出せなんて言えるの?」

中村美知子は中村奈々の鋭い視線から不自然に目を逸らし、首を硬くして言い放った。「どうせ一度売るも数回売るも同じでしょ。今更何を格好つけてるのよ!」

中村奈々は寂しげに笑うと、もうこの息が詰まる場所にいることはできなかった。

一刻たりとも、もう耐えられない。彼女は中村美知子を突き飛ばし、よろめきながら病室を飛び出した。

中村美知子は、中村奈々が慌てて逃げていく背中を見て、心中からわけもなく怒りが込み上げ、テーブルの脚を思い切り蹴りつけ、憤然と叫んだ。「中村奈々、この恩知らず! 戻ってきなさい!」

——

中村奈々は会社での仕事を終えると、急いで洋服店でのアルバイトに向かった。

十時近くになり、そろそろ閉店という時間になって、ようやく女将から電話があった。ザ・セレニティにドレスを数着届けてほしいという用件だ。

この洋服店はオーダーメイドで、顧客に服を届ける仕事が頻繁にあった。

中村奈々はたくさんの服を抱え、大急ぎでザ・セレニティへと向かった。

無事に部屋を見つけ、中村奈々はドアをノックした。

ほどなくして、ドアが開いた。

「今日、お洋服を届けてくださる店員さんね? 申し訳ないけど、中に入ってくださる?」ドアが開くと、ビジネススーツを着た女性が姿を現した。彼女は中村奈々に微笑みかけ、中にどうぞと体をずらした。

「はい、ありがとうございます」中村奈々はバッグを持ったまま、彼女について部屋に入った。

部屋に入った途端、中村奈々は恐怖に襲われた。すぐさま立ち去ろうとしたが、ドアはあの女によって外からロックされてしまった。

広々とした寝室には、四人の下品な男たちが座っていた。指に煙草を挟み、目を細めて彼女をじろじろと見ている。

その視線に、中村奈々の心臓は激しく高鳴った。無意識にバッグを握りしめ、四人を警戒しながら睨みつけ、どもりながら言った。「あ、あなたたちは誰ですか?」

男の一人が手の中の煙草を揉み消し、淫らな視線で中村奈々のしなやかな曲線をなめ回すように見つめた。舌なめずりをすると、ねっとりとした声で言った。「こんなに綺麗だとはな。今日はツイてるぜ」

中村奈々は眉をひそめ、冷たく言い放った。「あなたたちなんて知らない。ここから出してください」

「ちぇっ、美人さんは気が強いねえ!」男はさらに楽しそうに笑い、感心したように言った。「本当に綺麗だな! 名前はなんて言うんだ?」

中村奈々は恐怖に震えながらも、平静を装って言った。「申し訳ありませんが、私は接客に来たのではありません」そう言って、彼女は袋を手に立ち去ろうとした。

四人の大男がすぐに腕を伸ばして中村奈々の行く手を阻んだ。そのうちの一人の太った男が言った。「おとなしく言うことを聞いた方が身のためだぜ!」

言い終わるや否や、残りの三人が中村奈々を壁際に追い詰め、退路を完全に塞いだ。

中村奈々は恐怖で手が震えていた。彼女はそっとズボンのポケットに手を滑り込ませた。中には携帯電話が入っている。

彼女はがむしゃらにボタンをいくつか押し、電話がかかることを心の中で祈った……。

天は彼女の助けを求める声を聞き届けたらしい。携帯から男の声が聞こえた。相手が誰かを確認する間もなく、彼女は早口で言った。「ザ・セレニティの四〇四号室にいます、助けて……」

中村奈々の言葉は途中で途切れた。男たちに携帯を奪われ、床に叩きつけられて粉々に砕け散ったのだ!

「何をするんですか?!」中村奈々は恐怖に叫んだ。

「決まってるだろ? 美人さん……」太った男がにやにやと笑い、中村奈々にじりじりと迫る。「美人さん、兄ちゃんたちはずっと待ってたんだぜ。おとなしく協力してくれよなあ」

言葉が終わるか終わらないかのうちに、太った男は待ちきれないとばかりに中村奈々に襲いかかった。

中村奈々はもがいてもがいても、どうすることもできず、男に床に押さえつけられた。

太った男は中村奈々の薄いシャツを引き裂き、そのざらついた大きな掌が彼女の華奢な肌に赤い跡を残した。

「助けて——! 助けて! 助けて——」中村奈々は絶望して泣き叫び、涙で一瞬にして視界が滲んだ。

彼女は必死にもがいて逃げようとしたが、大柄な男には到底敵わず、両手両足を抑えつけられてしまった。太った男は中村奈々を凶悪な目つきで睨みつけ、ベルトを外し、興奮した様子で獰猛に笑った。「お嬢ちゃん、すぐ気持ちよくなるからな、ははは!」

中村奈々は男の魔の手が自分の敏感な場所に触れようとするのを見て、半狂乱で太った男の腕に思い切り噛みついた。

太った男は痛みに唸り声を上げ、手を振り上げて中村奈々を殴りつけようとした。中村奈々はとっさに彼の腕を掴んで力いっぱい引き下げると、男はバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。

中村奈々はその隙に起き上がってベランダまで駆け寄り、男たちに向かって叫んだ。「これ以上近づいたら、ここから飛び降りるから!」

中村奈々はもう覚悟を決めていた。この獣たちに辱められるくらいなら、死んだ方がましだ!

大男たちは彼女が本当に飛び降りようとしているのを見て、全員が呆然と立ち尽くし、顔を見合わせて躊躇しているようだった。

彼らは金で雇われて仕事をしに来たが、人命を奪うつもりはなかった。

「このクソアマ、飛び降りてみやがれ、ぶっ殺してやる!」太った男は噛まれた腕を押さえながら、悪態をついた。

「飛び降りるな。ドアを開けてやるから、俺たちはあんたを解放する。それでいいだろ?」眉尻に傷跡のある痩せた男が突然そう言うと、歩み寄ってドアに少しだけ隙間を作った。

中村奈々は階下を見つめ、そしてわずかに開いたドアを見つめた。全身の震えが止まらず、心臓が激しく脈打っていたが、最終的には生きたいという願いがすべてに打ち勝った。

「あんたたち、全員トイレに下がって! 私は一人で出ていく!」中村奈々は鋭く言い放った。

太った男は仲間たちを見ると、彼らが皆頷いて賛成の意を示したので、渋々トイレへと向かった。

中村奈々はほっと息をつき、彼らが全員トイレに入ったのを確認すると、素早くドアへと走った。

もう少しでドアを開けられるというところで、彼女は喜びに満ちた……。

突然、「バタン」という音とともに、ドアが外から再び固く閉ざされた。

中村奈々ははっと足を止め、血走った目で、力の限りドアを叩いた。「どうして閉めるの! 開けて! 開けてよ——助けて——」

先ほどの女は立ち去っておらず、ドアの前で見張りをしていたのだ。

中村奈々は力なくその場に崩れ落ち、固く閉ざされたドアを絶望的に見つめた。

彼女の背後では、四人の男たちがトイレから出てきて、ゆっくりと邪悪な笑みを浮かべながら彼女に近づいてきていた。

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