第305章

中村奈々は内心、首を傾げた。どう考えても他人の家庭の事情だし、プライバシーにも深く関わる問題だ。自分のような部外者が不用意に首を突っ込むのは、あまりに不適切ではないか。

だが、彼女が躊躇しているまさにその時、光岡和哉が口を開いた。

「中村。こっちへ来い」

中村奈々は観念し、覚悟を決めて奥へと足を踏み入れた。幸い、スタッフが気を利かせて画廊に「休憩中」の札を掲げ、外で見張りをしてくれていたおかげで、野次馬が集まる事態は避けられた。

通された内室はそれなりの広さがあったが、壁一面にたった一枚の絵画だけが飾られていた。この物々しい雰囲気からして、画廊の至宝とも呼ぶべき作品なのだろう。

そ...

ログインして続きを読む