第1章

光の視点

「光、今日結婚するって、どうして教えてくれなかったんだ?」

 怒りに満ちた顔で父さんが私に向かって突進してくる。そのすぐ後ろには、目を真っ赤に腫らした母さんの姿があった。

 手にしていたブーケを取り落としそうになる。薬指のすぐ上、あとほんの一センチというところで、指輪は宙に浮いたまま止まっていた。

 くそっ。一体どうやってここを嗅ぎつけたの。

「お祖母ちゃんがうっかり口を滑らせなかったら、私たち、今でも何も知らないままだったのよ!」

 耳を劈くような、母さんの甲高い声。

 お祖母ちゃん。やっぱり教えるべきじゃなかった。認知症を患っていても、言ってはいけない時に限って余計なことを言ってしまうのだから。

 颯斗が私の手をぎゅっと握りしめ、小声で尋ねる。

「光、大丈夫か?」

 私は答えなかった。言葉が出なかったのだ。

 祭壇の前までやってきた父さんが、私を引っ張ろうと手を伸ばす。

「三十年も育ててやったのに、こんな大事なことを隠しているなんて!」

「触らないで!」

 私は素早く後ずさりし、氷のように冷たい声で言い放つ。

「よくもそんなことが聞けたわね」

 牧師は気まずそうに傍らに立ち、困惑した表情を浮かべている。

 母さんが歩み寄り、急に猫撫で声を出しながら、私の手をぽんぽんと叩こうと手を伸ばしてきた。

「光、結婚なんてこんなに大事なこと、どうして教えてくれなかったの。パパもママも悲しいわ」

 この忌々しい優しさ。

 この手口は嫌というほど分かっている。

 結婚式がぶち壊しにされるたび、あの人たちは決まってこうだった――まずかわいそうな被害者を演じ、それから『もう一度やり直そう、次はきっとうまくいくから』と、口うるさく説教を始めるのだ。

 私はその手をきつく振り払った。

「本当に覚えていないの? それとも忘れたふりをしているだけ?」

 父さんがハッとして言葉を失い、その顔に一瞬だけ後ろめたさがよぎる。

 母さんの表情が強張り、視線が泳ぎ始めた。

 颯斗は眉をひそめ、この光景を見つめている。

「光、ご両親は一体何をしたんだ?」

 彼には、あの六回の悪夢について詳しく話したことは一度もない。『両親が反対しているの』と軽く流し、すぐに話題を変えてごまかしてきたのだ。

 今思えば、もっと早く真実を打ち明けるべきだった。

「ごめんなさい、颯斗」

 私は深く息を吸い込み、両親へと向き直る。

「あなたに言わなかったのは――この人たちに、また私の結婚式をめちゃくちゃにされたくなかったからよ」

「また?」

 颯斗の声には驚きが満ちていた。

「六回よ」

 私は両親をじっと睨みつける。

「この人たちは、私の結婚式を六回もぶち壊したの」

 一回目の結婚式の光景が、ふいに脳裏に蘇る。

 村田。私の初恋の人。ハンサムでお金持ち。高校時代から大学を卒業するまで、ずっと愛し合っていた。

 まさに指輪をはめようとしたその瞬間、母さんが金切り声を上げながら突進してきて、シャンパンタワーを思い切り突き飛ばしたのだ。

 ガラスの破片が雨のように降り注ぎ、私のふくらはぎに突き刺さる。真っ白なウェディングドレスに鮮血が滲んでいった。

「あいつはイケメンすぎるのよ!」

 あの時も母さんは、狂気に満ちた目で私を睨みつけていた。

「ただのプレイボーイよ! 絶対に浮気するわ!」

 でも、村田は五年間私だけを愛し続け、無数の女の子からのアプローチを断り、決して一線を越えることはなかったのに。

 二週間後、彼から別れを告げるメッセージが届いた。

『愛しているよ、光。でも、僕のせいで君に家族を失わせるわけにはいかない』

 二回目は陽斗。職場の同僚で、平凡な顔立ちの、真面目で誠実な人だった。

 今度こそ、両親も満足してくれると思っていた。

 けれど、指輪をはめようとしたまさにその瞬間、父さんがピックアップトラックを運転して、結婚式の会場にそのまま突っ込んできたのだ。

 花のアーチは粉々に砕け散り、招待客は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。

「こんなみすぼらしい結婚式があるか!」

 父さんはそう怒鳴り散らした。

「お前にはもっとふさわしい相手がいるはずだ!」

 陽斗の家族は警察に通報した。

 三回目、四回目、五回目――その理由は、回を重ねるごとに馬鹿げていった。

「星座の相性が最悪よ!」

「日取りが縁起でもない!」

「すごく嫌な夢を見たの!」

 毎回決まって、指輪をはめるその瞬間。毎回決まって、ヒステリックな妨害。

 そして結婚式がめちゃくちゃにされた後、彼らはまた私の手を引き、切々と訴えかけるのだ。

「私たちももう年よ、光。あなたにも寄り添ってくれる人が必要だわ」

「私たちはただ、あなたに幸せになってほしいだけなんだ。本当にふさわしい人を見つけてほしいんだよ」

「次はきっとうまくいく。約束するわ」

 私は何度も何度もほだされてしまった。だって、結婚のこと以外、彼らは幼い頃から私の願いをなんでも叶えてくれたから。

 誕生日プレゼント、学費、留学の費用――私が望むものなら、決して断ることはなかったのだ。

 だから私は何度も許し、何度も挑戦した。

 六回目を迎えるまでは。

「六回目」

 私の声が震え始める。

「一年前のことよ。覚えている?」

 母さんの顔からサッと血の気が引いた。

 父さんはうつむいている。

「あなたたちが選んだ男だったわよね」

 私は一言一言、噛み締めるように言った。

「完璧な経歴に、完璧な家柄。結婚式も、すべてあなたたちの要望通りに手配したわ。指輪のデザインだって、十種類も用意して選ばせたじゃない」

「すべてが完璧だった。何もかもが」

 颯斗が私の震える肩を抱き寄せ、険しい表情を浮かべる。

「指輪をはめるその瞬間まではね」

 私は母さんをじっと見つめる。

「あなたはハンドバッグからナイフを取り出して、自分の首に突きつけた」

 牧師がハッと息を呑む音が聞こえた。

「あなたはこう言ったわ。『その指輪をはめたら、今ここで死んでやる』って」

 母さんは膝から崩れ落ちそうになり、父さんが慌てて支える。

「あの時からよ」

 私は深く息を吸い込んだ。

「あなたたちのことは二度と信じられないって悟ったの。永遠にね」

 六回目の結婚式の後、私は両親を着信拒否にし、仕事を辞め、N市からS市へと引っ越した。

 当時の自分の状態はよく覚えている――デートの誘いには一切乗らず、ウェディングドレスの店を見かければ遠回りし、友人の結婚式に出席することすら怖かった。結婚恐怖症、指輪恐怖症、結婚に関わるあらゆるものが恐ろしかったのだ。

「もう二度と結婚しないって誓ったわ」

 私はそっと目を閉じる。

「二度と」

 教会の中は静まり返っていた。

「でも、その後で颯斗に出会ったの」

 私は彼の方を振り向き、目を潤ませる。

 彼は私の上司で、私に一目惚れしたと言ってくれた。彼の熱烈なアプローチの末、私はとうとう心を開いてしまったのだ。

「本当は、結婚なんてしたくなかった」

 声が詰まる。

「絶対に嫌だった。でも、三ヶ月前に……」

 少し言葉を区切ると、颯斗はすぐに私の肩を強く抱きしめてくれた。

「だから今回は」

 再び声が震え出す。

「万が一に備えて、こんな辺鄙な場所にある小さな教会を選んだの。すべての連絡を断って。あなたたちに見つかるはずがないと確信していたのに」

「それなのに、また来たのね」

 私は一歩後ずさるなり、声を張り上げた。

「まさに指輪をはめるその瞬間に! 七回とも全部そう! どうしてなの?!」

「理由を教えてよ! どうして毎回、あの瞬間に邪魔をするの?!」

 父さんは口を開きかけたものの、何も言い出せなかった。

 母さんの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「警備員!」

 私は突然叫んだ。氷のように冷酷な声で。

「この人たちをつまみ出して!」

「いやっ! 待って!」

 母さんが突然その場にひざまずいた。

「光、話を聞いて! 今回は違うの!」

「今回は絶対に邪魔なんかしない!」

 父さんもひざまずき、涙を流す。

「私たちはただ、この場にいたかっただけなんだ。お前が幸せになるのを見たかっただけなんだよ!」

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