第2章

「立て」と、私は冷たく言い放った。

「芝居はやめて」

 しかし両親は立ち上がらなかった。冷たい石板の床にひざまずき、ひどく卑屈で、そして老いぼれて見えた。

「光、私たちが間違っていた」父が震える手で鞄から書類の束を取り出した。

「これはS市に買った別荘だ。名義はお前のものになっている」

 私は呆然とした。

 母は宝石箱からジュエリーのセットを取り出した。エメラルドのネックレス、イヤリング、そして巨大なエメラルドが嵌め込まれた指輪。

「これはお祖母様が私に残してくれたものなの」彼女は声を詰まらせた。

「一族の伝統で、あなたが結婚する時に譲るべきものよ」

 照明の下、宝石たちは深淵のような緑色の光を放っていた。

「いらない」私は顔を背けた。

「颯斗は何でも持っている」

「光」母が立ち上がり、私の手を握った。

「これは私たちがあなたに贈る、後盾よ。将来何があろうと、あなたには自分の家があり、自分の財産があるの」

 彼女の手は冷たく、ざらついていた。私はふと気づいた――彼女は老けた。本当に老いたのだ。

 たった一年会わなかっただけで、母の髪の大部分は白くなり、目尻のシワは恐ろしいほど深くなっていた。父の背中も丸まり、手には老人斑が浮かんでいる。彼らはまるで六十代のように見えるが、まだ五十二歳なのだ。

「約束する」父の声は震えていた。

「今度の指輪の交換では、絶対にトラブルは起きない。ちゃんと確認したから、大丈夫だ。お前が幸せなら、私たちはもう二度とお前たちの邪魔はしない」

「確認した」とはどういう意味だ? 指輪に確認が必要なのか?

 美紀子がそっと私の袖を引いた。

「光、もしかしたら……」

「もしかしたら何?」私は猛然と彼女を振り返った。

「もしかしたら、もう一度あの人たちを信じるべきだって? そしてまた恥をかかされるの?」

 颯斗が歩み寄り、私の肩に手を置いた。

「光、彼らが君を傷つけたのは分かっている。でも、彼らを見てくれ――」

「あなたもあの人たちの味方なの?」

「違う」彼は優しく言った。

「俺はいつだって君の味方だ。でも、彼らは君の両親だ。それに……」彼はあの宝石と権利書に目を向けた。

「本気のように見える」

 私はそれらの書類を見つめた。S市の地価を考えれば、それは彼らの全財産に等しいはずだ。

「約束するわ、光」母は涙を流した。

「私たちは本当に反省しているの」

 私の心の防壁が揺らぎ始めた。くそっ、なんで私はいつもこんなに脆いのだろう?

「分かった」自分の小さな声が聞こえた。

「これが最後だから」

 母は感極まって私を抱きしめようとしたが、私は一歩後ずさった。

「でも、もしまた――」

「しない!」父が慌てて言った。

「絶対にしない!」

 彼らは最前列の長椅子に退いて座った。母はバッグからハンカチを取り出して絶えず涙を拭い、父は彼女の手を握りしめ、二人とも興奮と緊張が入り混じったような様子だった。

 牧師が咳払いをした。

「それでは……続けましょうか?」

 私は深呼吸をして、頷いた。

「さあ」颯斗が低い声で言い、励ますような微笑みを向けた。

 誓いの言葉は順調に進んだ。私と颯斗は誓いを交わした。声は震えていたが、やり遂げた。牧師は微笑んで頷き、次の式次第へ移るよう合図した。

「指輪の交換をお願いします」

 佐々木がリングケースを差し出した。二つのシンプルなプラチナリングが、ベルベットのクッションの上に静かに横たわっている。

 私はその一つを手に取り、颯斗の指にはめた。指輪はスムーズに彼の薬指に収まった。

 何事も起きない。悲鳴もない。誰も飛び出してこない。

 私は安堵の息をつき、祭壇の下の両親を見た――彼らは依然としてそこに座っており、母は微笑んですらいた。

 次は颯斗の番だ。

 彼はもう一つの指輪を手に取り、私の左手を握った。

「光、この指輪で――」

 私の手が突然震え始めた。あの馴染み深い恐怖が蘇ってきたのだ。

「光?」颯斗が気づいた。

「大丈夫か?」

「私……」私は唇を噛んだ。

「怖い」

 彼は指輪を置き、両手で私の顔を包み込んだ。

「俺を見て。俺だけを見るんだ。大丈夫、約束する」

 しかし、私はまだ震え、呼吸が荒くなっていた。

 颯斗は突然、私の母に向き直った。

「あの宝石の中の指輪――それを使えませんか? ご両親が贈ってくれた指輪なら、光も安心できるはずです」

 天才だ。

「そうね!」私は切羽詰まった声で言い、両親を振り返った。

「お祖母様の指輪を使いましょう! あなたたちがくれたものなら、問題なんて起きないわよね?」

 両親は一瞬呆然とし、そして頷いた。

 母が進み出て指輪を颯斗に渡すのを見て、私はほっと息をついた。

 今度こそ問題は起きない、そうでしょう?

 颯斗は指輪を受け取り、私の左手を握った。指輪がゆっくりと近づいてくる。

 視界の隅で、両親が背筋を伸ばして座り、手を固く握り合っているのが見えた。しかし彼らは立ち上がらず、悲鳴も上げなかった。

 数センチ。

 数ミリ。

 金属の冷たさが私の指先に触れた――

「駄目! 駄目! やめて!」

 両親が同時に飛び上がり、祭壇へと飛び出してきた。

 やっぱりだ。こうなると思っていた。

 しかし今回は違った。母の悲鳴は、どこか恐怖に満ちているように聞こえた。

「やめて! 早くやめて!」母が駆け寄り、指輪をひったくると、力任せに床に叩きつけた。

 父は銀の燭台を掴み、狂ったように振り下ろした。

 一度、二度、三度。

 指輪は父の打撃で変形し、砕け、完全に粉砕された。

 燭台が床に落ち、甲高い音を立てた。

 父はそこに立ち尽くし、両手は震え、胸は激しく上下していた。母は床にへたり込み、顔を覆って押し殺したような泣き声を上げた。

 教会の中は死んだように静まり返った。

 颯斗は数歩後ずさり、顔面を蒼白にしていた。

「一体どうなって……」

 私は床の破片を見つめていた。

 彼らはやはり指輪を壊し、すべてをぶち壊したのだ。

「どうして?」私は虚ろな声で尋ねた。

「あの指輪を使っていいって言ったじゃない。どうして壊したりしたの?」

 父は顔を上げた。その目には絶望と狂気が満ちていた。

「すまない、光。お前はあの指輪をはめてはいけないんだ!」

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