第23章

遠――司の秘書だった。

栞は、知り合いに遭遇するとは思っていなかった。まして心配までされるなんて。鼻の奥がつんと酸っぱくなり、その感覚がいっそう強まる。

たった数回顔を合わせただけの相手ですら、彼女の異変に気づいたのに。

何年も愛した男は、彼女が足を引きずって去っていくのを、ただ見送っただけだった。

「大丈夫です」

不快感をこらえ、無理やり笑ってみせる。

「スマホ、なくしちゃって……保険の手続き、たぶんお手数かけます」

遠は、栞の頬に残る手の跡を見てぎょっとした。

――殴られた?

さっきまで、うちの社長がスマホ見ながら笑ってた相手が?

くそ。

堪忍袋の緒が切れる、とはこ...

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