第56章

司の口調は淡々としていた。けれど、その淡々とした中に宿る本気の重みは、誰の耳にもはっきり伝わった。

栞はどこか呆けたように、目の前の男を見つめる。

昨夜の絶望と、砕け散った記憶の断片だけは生々しいのに――彼が現れてから先の出来事は、どうにも輪郭が曖昧だ。

心の堤防が一瞬で崩れ、薬に身を任せるしかなかった……そんな感覚だけが残っている。

「……ありがとうございます」

声はひどく掠れ、言葉が喉に引っかかる。無理やり口角を上げた笑みも、痛々しいほどぎこちない。

「あなたがいなかったら……」

司は手を引き、穏やかな声音で返した。

「君がずっと必死に踏ん張っていたから、間に合ったんだ。...

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