第7章

成田空港の到着ロビーは、春の気配に満ちていた。

尊史に続いて空港を出ると、まるで自分が別人になったかのような錯覚に陥った。

ここを発つ時はまだ冷たい雨が降り続いていた東京も、今では桜が満開の季節を迎えている。

「気分はどう?」

黒いサングラスをかけた尊史が、穏やかな声で尋ねてきた。

私はノートに書き込む。

『大丈夫です。少なくとも、辛くはありません』

「先にいくつか出版社で処理しないといけない用事があるんだ」

尊史は言った。

「先にホテルで休むかい? それとも、弁護士に会いたい?」

『弁護士に』

私はその言葉を書き記した。

離婚は成立したものの、財産分...

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