第9章

京都での読書会は、予想をはるかに超える盛況ぶりだった。

私は尊史の書店の片隅に座り、人々が次々と『寂静書房』を後にしていくのを眺めながら、満足感と一抹の不安を覚えていた。もともとは小規模なイベントだったはずが、尊史の最新刊『癒やしの声』が思わぬ注目を集め、メディア関係者も少なからず訪れたのだ。

「今日は八十人以上来ましたね。予定の倍です」

尊史は店のドアを閉めると、微笑みながらこちらへ歩いてきた。

私はノートに書きつける。

『少し、目立ちすぎではないでしょうか?』

尊史は静かに首を振った。

「書店というのは、声を分か合うための場所ですから。たとえ、それが声なき声であっ...

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