第106章

突然、トレーを掲げた給仕が人波に押され、よろめいた拍子に真っすぐ須藤郁夜へぶつかった。

「きゃっ!」

須藤郁夜は短い悲鳴を上げ、バランスを崩す。そのまま――あまりにも自然に、立花真淵の胸へ転がり込んだ。

立花真淵は反射的に手を伸ばし、彼女の腰を支える。

ほんの一瞬の出来事。

その一部始終を、会場の隅に立つ新谷卿華は見ていた。

怒りもしない。嫉妬もしない。

ただ冷めた目で視線を外し、手にしたソーダを一口、喉へ流し込む。

けれど立花真淵の視界の端は、その一秒で正確に隅の黒い影を捉えていた。

新谷卿華。

見ていた。だが彼女は顔を背けた。退屈な茶番でも眺めるみたいに、まるで無関心...

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