第139章

 彼はもう彼女に抵抗する隙すら与えなかった。躊躇なく顔を寄せ、その唇を塞ぐ。上がりかけた抗議も罵声も、すべて喉の奥へと呑み込まれていく。

 車内の温度がじわじわと上がっていった。

 マイバッハの足回りは上質だ。それでも夜の闇を滑る車体は、かすかに揺れる。

 ――二時間後。

 車内には濃密な匂いが滞り、熱がまだ残っていた。暖房がごうごうと息を吐き続ける。

 新谷卿華は、まるで骨を抜かれたみたいにぐったりして、指一本動かす力もない。シルクのシャツはくしゃくしゃで、コートだけが彼女をきっちり包み込んでいる。

 シートを倒したまま身を預け、目を閉じる。呼吸は規則的で、もう深い眠りに落ちて...

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