第50章

新谷卿華は小さく首を振り、胃の奥から込み上げてくる酸いものを、無理やり喉の奥へ押し戻した。

「大丈夫です、先輩」唇の端を引いてみせる。声はかすかに弱いのに、不思議なくらい冴えていた。「せっかく来たのに、途中で帰るわけにはいきません。星川には……今日、顔を出す必要があるんです」

金田川浬は、その細い体に意地だけをまとったような彼女を見て、ふっと息を吐いた。これ以上は言わない。代わりに、そっと肘のあたりに手を添え、支えるだけ支える。

「わかった。じゃあ、先に席で少し休もう」

そうして身を返しかけた、そのとき――新谷卿華の背中が、じわりと強張った。

あまりにも覚えのある感覚。喧噪を突き破...

ログインして続きを読む